2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧
…龍我side…… 暖かい風が桜を揺らす春。 太陽が照りつける暑い夏。 木の葉が美しく色づく秋。 雪降る夜に誰かを想う冬。 また新しい芽が吹いて。 そうして季節は繰り返される。 高校を卒業してから、俺は大学へは行かず、仕事に専念することにした。 というの…
…夏菜子side…… 3学期、始業式。 教室のドアを開けるとき、あたしの手は強張った。 唇を噛みしめて、勢いよくドアを開ける。 「…って、いるわけないよね」 窓際の一番後ろの席で文庫本を開く、その姿はやっぱりない。 澄んだ冬空の陽光が眩しく降り注ぐ教室。…
…龍我side…… 『私ね、ほんとに…龍我くんに出会えて、良かったと思ってるよ。…すごく幸せ』 微笑む真梨に愛しさが募る。 『うん、俺も幸せだよ』 目の前の笑顔が、 『真梨……』 …大好き。 「っ!」 目が覚めた。しんと冷えた空気が体をくすぐった。 また同じ夢…
…真梨side…… 12月2日。 それは突然の告知だった。 「水瀬さん、ちょっといいかしら?」 図書当番で図書館にいた私は、急遽担任の先生に呼び出されて、席を外すことになった。 「なんですか?」 廊下を歩きながら先生に訊いても、「あぁ…ちょっとね」と曖昧に…
…金指side…… 廊下には、何も聞こえてこなかった。彼の泣き声も何も。 分厚い壁が塞いでいるのか、あえて声を小さくしているのか…どちらにしろ、俺には入り込めない龍我の心の内がそこにはある。 泣きたかったんだ、ずっと。 微かに潤んだ瞳はカメラにどう映…
…志田side…… 「じゃあ…言ったんだな、先生に」 ケイは静かな目で宙を見つめていた。 「うん…橘さんが、話してくれて」 彼女は一度、秘密にすると誓った恋を、大きな決意のうえで、私に話してくれたのだ。 それは修学旅行前、ケイに渡されたメモの最後の文と…
…志田side…… _ガチャ 校長室の扉を開けると、目の前に泣き腫らした目の彼女が立っていた。 私は駆け寄って、彼女を抱きしめた。長身を屈めて泣く彼女の背中を、ぽんぽんと叩く。 「ありがとう。全部、話してくれて…」 後悔していますか。 そう訊かれたら、…