ピの図書館

ピの図書館へようこそ。このブログでは、ツイッターに掲載しない長編小説を投稿しています。

2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧

【瞬 エピローグ】

…龍我side…… 暖かい風が桜を揺らす春。 太陽が照りつける暑い夏。 木の葉が美しく色づく秋。 雪降る夜に誰かを想う冬。 また新しい芽が吹いて。 そうして季節は繰り返される。 高校を卒業してから、俺は大学へは行かず、仕事に専念することにした。 というの…

【瞬 第11話 夢③】

…夏菜子side…… 3学期、始業式。 教室のドアを開けるとき、あたしの手は強張った。 唇を噛みしめて、勢いよくドアを開ける。 「…って、いるわけないよね」 窓際の一番後ろの席で文庫本を開く、その姿はやっぱりない。 澄んだ冬空の陽光が眩しく降り注ぐ教室。…

【瞬 第11話 夢②】

…龍我side…… 『私ね、ほんとに…龍我くんに出会えて、良かったと思ってるよ。…すごく幸せ』 微笑む真梨に愛しさが募る。 『うん、俺も幸せだよ』 目の前の笑顔が、 『真梨……』 …大好き。 「っ!」 目が覚めた。しんと冷えた空気が体をくすぐった。 また同じ夢…

【瞬 第11話 夢①】

…真梨side…… 12月2日。 それは突然の告知だった。 「水瀬さん、ちょっといいかしら?」 図書当番で図書館にいた私は、急遽担任の先生に呼び出されて、席を外すことになった。 「なんですか?」 廊下を歩きながら先生に訊いても、「あぁ…ちょっとね」と曖昧に…

【瞬 第10話 別れ③】

…金指side…… 廊下には、何も聞こえてこなかった。彼の泣き声も何も。 分厚い壁が塞いでいるのか、あえて声を小さくしているのか…どちらにしろ、俺には入り込めない龍我の心の内がそこにはある。 泣きたかったんだ、ずっと。 微かに潤んだ瞳はカメラにどう映…

【瞬 第10話 別れ②】

…志田side…… 「じゃあ…言ったんだな、先生に」 ケイは静かな目で宙を見つめていた。 「うん…橘さんが、話してくれて」 彼女は一度、秘密にすると誓った恋を、大きな決意のうえで、私に話してくれたのだ。 それは修学旅行前、ケイに渡されたメモの最後の文と…

【瞬 第10話 別れ①】

…志田side…… _ガチャ 校長室の扉を開けると、目の前に泣き腫らした目の彼女が立っていた。 私は駆け寄って、彼女を抱きしめた。長身を屈めて泣く彼女の背中を、ぽんぽんと叩く。 「ありがとう。全部、話してくれて…」 後悔していますか。 そう訊かれたら、…