ピの図書館

ピの図書館へようこそ。このブログでは、ツイッターに掲載しない長編小説を投稿しています。

2020-06-01から1ヶ月間の記事一覧

【瞬 第9話 刹那③】

…真梨side…… 11月。 冷たい風が頬をさし、私は首をすくめた。 そろそろマフラーデビューかななんて思いながら、澄み切った空を見上げた。 寒いけれど心地よい。目の覚めるような青空だった。 午前6時半、書庫。 「おはよう、龍我くん」 イスに座って、彼はい…

【瞬 第9話 刹那②】

…龍我side…… 不思議だね。 大きな決心をしてから、君と過ごす時間が増えた。 苦しい決断だったのに、その理由にあたる人と一緒にいた。 制限時間が短くなるかもしれないのに、一緒にいた。 心の奥にどこか寂しさを抱えながら、それでも俺たちがその時間を苦…

【瞬 第9話 刹那①】

…真梨side…… 10月。 2学期の中間テストを目前に、私は自室で猛勉強していた。 猛勉強…といったら無言でシャーペンを動かすことを想像するかもしれないけれど、実際は教科書とノートをひたすら音読するだけだ。お姉ちゃんから教わった勉強法。耳で覚える、こ…

【瞬 第8話 交錯③】

…龍我side…… 本当に信じられる人。 慎重に慎重を重ねて、真梨と2人で考えた。 秘密を打ち明ける友達、数人を絞りながら、 俺が俺で…ごめんね? 何度そう思ったかしれない。 真梨は勘づいて、 「…私が決めたことだから」 きっぱりとそう言った。 「龍我くんと…

【瞬 第8話 交錯②】

…夏菜子side…… バカみたいだ。 あたしは、目の前に積まれた書類を呆然と見つめていた。 各クラスの学級委員が集まった放課後の生徒会室。文化祭での自分のクラスの決算をまとめて、会長に提出してから帰る。 計算だけの簡単な作業だ。すぐに終わると思ったの…

【瞬 第8話 交錯①】

…真梨side…… ダンス部のパフォーマンスが終わると、シフト交代の時間。私たちは教室に戻り、今度は文化祭のキャスト側にまわる。 廊下を見ると、お客さんがずらりと並んでいた。 「ここ美味いらしいよ」 「あっ俺もC組の奴に聞いた。生徒の手作りだけどプロ…

【瞬 第7話 告白③】

…夏菜子side…… 文化祭3日前。 カナヅチの音や話し合いの白熱した声が響く教室。 ちなみに東城高校では、文化祭までの1週間、授業がなくなる。最後の追い込みに、クラスメートはみんな力を入れていた。 うちのクラスの出し物はカフェ。 でも、ただのカフェじ…

【瞬 第7話 告白②】

…橘side…… 「え……?」 思いがけない言葉に、私は顔を上げた。 あんなひどいことを言ったのに、ありがとうなんて… 「橘さんの言葉は、確かにあの2人を傷つけた。けど…俺は、龍我の脇の甘さも、問題だと思ってる。橘さんはそれに気づかせてくれた。だから、あ…

【瞬 第7話 告白①】

…真梨side…… 私の朝は変わらない。 6時半の開門と同時に校門をくぐり、靴を履き替える。龍我くんと待ち合わせをしていたら書庫に行き、そうでなければまっすぐ教室へ行く。 今日は前者のほうで、もう何度秘密の時間を過ごしたかしれない図書館書庫に向かった…

【瞬 第6話 疑念③】

…真梨side…… 「えぇーっ! 断ったの!?」 「ちょっと、声が大きすぎ…」 昼休みの教室にこれはまずい。一瞬にしてクラスメートの視線が私たちに集まる。 「いつものことだよな」 夏菜子の隣でカツサンドにがっついている松井くんが、やれやれという感じで苦…

【瞬 第6話 疑念②】

…龍我side…… どこから崩れたのだろう。 どこで知られたのだろう。 あの脆く、密かな関係は。 今も俺はその瞬間を知らない。 知りたくもないし、聞いたこともない。 それが"彼"の…金指一世なりの優しさだと思ったから。 その日、宿題で出された世界史のレポー…

【瞬 第6話 疑念①】

…真梨side…… 学校までの道を歩いていた。 あるかなしかの風が吹き、足元をすり抜けていく。 9月2日。今日から2学期が始まる。警備員さんしかいない、早朝6時半の学校に入ると、私はその足でいつもの場所に向かった。 _ガラガラ 書庫のドアを開けたとたん、…