ピの図書館

ピの図書館へようこそ。このブログでは、ツイッターに掲載しない長編小説を投稿しています。

2020-01-01から1年間の記事一覧

【瞬 番外編②あの日、君は。】

…夏菜子side…… "真梨へ" 思えばそれは、初めて書いた手紙だった。 『友人代表のスピーチをしてもらいたくて…』 頼まれたとき、あぁ、そうだ、と思いついた。 あたしは語り部になろう。 この"奇跡"の語り部に。 国語の苦手なあたしが唯一、すらすらと綴ること…

【瞬 番外編①エピローグ〜未来】

…真梨side…… 「…久しぶり。真梨」 目の前の光景。あまりにも信じがたいその光景に、時が止まった…ような気がした。 白い光のなか、その人は幻のようにそこに立っていた。 私に笑いかけながら。 忘れるはずないその瞳。 「…龍我くん…?」 彼は小さく頷いた。 …

【瞬 エピローグ】

…龍我side…… 暖かい風が桜を揺らす春。 太陽が照りつける暑い夏。 木の葉が美しく色づく秋。 雪降る夜に誰かを想う冬。 また新しい芽が吹いて。 そうして季節は繰り返される。 高校を卒業してから、俺は大学へは行かず、仕事に専念することにした。 というの…

【瞬 第11話 夢③】

…夏菜子side…… 3学期、始業式。 教室のドアを開けるとき、あたしの手は強張った。 唇を噛みしめて、勢いよくドアを開ける。 「…って、いるわけないよね」 窓際の一番後ろの席で文庫本を開く、その姿はやっぱりない。 澄んだ冬空の陽光が眩しく降り注ぐ教室。…

【瞬 第11話 夢②】

…龍我side…… 『私ね、ほんとに…龍我くんに出会えて、良かったと思ってるよ。…すごく幸せ』 微笑む真梨に愛しさが募る。 『うん、俺も幸せだよ』 目の前の笑顔が、 『真梨……』 …大好き。 「っ!」 目が覚めた。しんと冷えた空気が体をくすぐった。 また同じ夢…

【瞬 第11話 夢①】

…真梨side…… 12月2日。 それは突然の告知だった。 「水瀬さん、ちょっといいかしら?」 図書当番で図書館にいた私は、急遽担任の先生に呼び出されて、席を外すことになった。 「なんですか?」 廊下を歩きながら先生に訊いても、「あぁ…ちょっとね」と曖昧に…

【瞬 第10話 別れ③】

…金指side…… 廊下には、何も聞こえてこなかった。彼の泣き声も何も。 分厚い壁が塞いでいるのか、あえて声を小さくしているのか…どちらにしろ、俺には入り込めない龍我の心の内がそこにはある。 泣きたかったんだ、ずっと。 微かに潤んだ瞳はカメラにどう映…

【瞬 第10話 別れ②】

…志田side…… 「じゃあ…言ったんだな、先生に」 ケイは静かな目で宙を見つめていた。 「うん…橘さんが、話してくれて」 彼女は一度、秘密にすると誓った恋を、大きな決意のうえで、私に話してくれたのだ。 それは修学旅行前、ケイに渡されたメモの最後の文と…

【瞬 第10話 別れ①】

…志田side…… _ガチャ 校長室の扉を開けると、目の前に泣き腫らした目の彼女が立っていた。 私は駆け寄って、彼女を抱きしめた。長身を屈めて泣く彼女の背中を、ぽんぽんと叩く。 「ありがとう。全部、話してくれて…」 後悔していますか。 そう訊かれたら、…

【瞬 第9話 刹那③】

…真梨side…… 11月。 冷たい風が頬をさし、私は首をすくめた。 そろそろマフラーデビューかななんて思いながら、澄み切った空を見上げた。 寒いけれど心地よい。目の覚めるような青空だった。 午前6時半、書庫。 「おはよう、龍我くん」 イスに座って、彼はい…

【瞬 第9話 刹那②】

…龍我side…… 不思議だね。 大きな決心をしてから、君と過ごす時間が増えた。 苦しい決断だったのに、その理由にあたる人と一緒にいた。 制限時間が短くなるかもしれないのに、一緒にいた。 心の奥にどこか寂しさを抱えながら、それでも俺たちがその時間を苦…

【瞬 第9話 刹那①】

…真梨side…… 10月。 2学期の中間テストを目前に、私は自室で猛勉強していた。 猛勉強…といったら無言でシャーペンを動かすことを想像するかもしれないけれど、実際は教科書とノートをひたすら音読するだけだ。お姉ちゃんから教わった勉強法。耳で覚える、こ…

【瞬 第8話 交錯③】

…龍我side…… 本当に信じられる人。 慎重に慎重を重ねて、真梨と2人で考えた。 秘密を打ち明ける友達、数人を絞りながら、 俺が俺で…ごめんね? 何度そう思ったかしれない。 真梨は勘づいて、 「…私が決めたことだから」 きっぱりとそう言った。 「龍我くんと…

【瞬 第8話 交錯②】

…夏菜子side…… バカみたいだ。 あたしは、目の前に積まれた書類を呆然と見つめていた。 各クラスの学級委員が集まった放課後の生徒会室。文化祭での自分のクラスの決算をまとめて、会長に提出してから帰る。 計算だけの簡単な作業だ。すぐに終わると思ったの…

【瞬 第8話 交錯①】

…真梨side…… ダンス部のパフォーマンスが終わると、シフト交代の時間。私たちは教室に戻り、今度は文化祭のキャスト側にまわる。 廊下を見ると、お客さんがずらりと並んでいた。 「ここ美味いらしいよ」 「あっ俺もC組の奴に聞いた。生徒の手作りだけどプロ…

【瞬 第7話 告白③】

…夏菜子side…… 文化祭3日前。 カナヅチの音や話し合いの白熱した声が響く教室。 ちなみに東城高校では、文化祭までの1週間、授業がなくなる。最後の追い込みに、クラスメートはみんな力を入れていた。 うちのクラスの出し物はカフェ。 でも、ただのカフェじ…

【瞬 第7話 告白②】

…橘side…… 「え……?」 思いがけない言葉に、私は顔を上げた。 あんなひどいことを言ったのに、ありがとうなんて… 「橘さんの言葉は、確かにあの2人を傷つけた。けど…俺は、龍我の脇の甘さも、問題だと思ってる。橘さんはそれに気づかせてくれた。だから、あ…

【瞬 第7話 告白①】

…真梨side…… 私の朝は変わらない。 6時半の開門と同時に校門をくぐり、靴を履き替える。龍我くんと待ち合わせをしていたら書庫に行き、そうでなければまっすぐ教室へ行く。 今日は前者のほうで、もう何度秘密の時間を過ごしたかしれない図書館書庫に向かった…

【瞬 第6話 疑念③】

…真梨side…… 「えぇーっ! 断ったの!?」 「ちょっと、声が大きすぎ…」 昼休みの教室にこれはまずい。一瞬にしてクラスメートの視線が私たちに集まる。 「いつものことだよな」 夏菜子の隣でカツサンドにがっついている松井くんが、やれやれという感じで苦…

【瞬 第6話 疑念②】

…龍我side…… どこから崩れたのだろう。 どこで知られたのだろう。 あの脆く、密かな関係は。 今も俺はその瞬間を知らない。 知りたくもないし、聞いたこともない。 それが"彼"の…金指一世なりの優しさだと思ったから。 その日、宿題で出された世界史のレポー…

【瞬 第6話 疑念①】

…真梨side…… 学校までの道を歩いていた。 あるかなしかの風が吹き、足元をすり抜けていく。 9月2日。今日から2学期が始まる。警備員さんしかいない、早朝6時半の学校に入ると、私はその足でいつもの場所に向かった。 _ガラガラ 書庫のドアを開けたとたん、…

【瞬 第5話 秘密③】

…真梨side…… 毎回思うけれど、夢の国はどこまでも夢の国だ。 夏休みということもあり、人々でごった返すそこは、ディズニーランド。 ゲートを入る前から耳馴染みのある曲が流れ、どの人も幸せそうな笑みを浮かべている。 「着いたー!」 夏菜子が駆けだすと…

【瞬 第5話 秘密②】

…龍我side…… 「えっ、嘘!?」 廊下に貼り出された紙の前で、俺は目を丸くした。 1学期期末テストの成績上位30名が載っているのだが、なんと25位に俺の名前があったのだ。確かに真梨に教えてもらったところばかりが出て、今までになく自信があったけど……『こ…

【瞬 第5話 秘密①】

…真梨side…… 7月の教室は、いつもよりなんだか騒がしい。夏休みを目前に、みんな浮かれているからかもしれない。 「真ー梨っ! 夏休みどっか行こ!」 暑さを吹き飛ばすような夏菜子の声に、私も朝から爽やかな気分だ。 「ディズニー行こうよ! ディズニー!…

【瞬 第4話 恋③】

…龍我side…… 真梨は昨日より神妙そうな顔で、しかし時間通りに書庫にやってきた。 絶対に避けては通れない話をするために。 「真梨。今日、また呼んだのは……俺の、ことを話すためだ」 目を逸らさずに、はっきりと言う。彼女は、しっかり頷いてくれた。 「俺…

【瞬 第4話 恋②】

…真梨side…… 土曜日の夜。 私たち家族は、ひとつの携帯を3人で覗き込みながら、そのときを待っていた。 今日は、美tubeの更新日。紛れもなく、フラワーアレンジ体験をした回だ。 「にしても収録が5月半ばで、アップまで1ヶ月以上かかるってどうなのよ」 お姉…

【瞬 第4話 恋①】

…龍我side…… 休み時間、何とはなしに気になって携帯を開いた俺に、金指は不思議そうに尋ねた。 「なんかあったの?」 「ん、え、なんで」 「だって朝から携帯ばっか見てる。ていうか最近見すぎ。ISLAND TVでどんだけ携帯いじってる姿撮られてると思ってんの…

【瞬 第3話 距離③】

…龍我side…… 家に帰り着いたのは、午後10時を過ぎた頃だった。まだ明るいリビングではお笑い番組が点けられていて、弟が大声で爆笑している。 「ただいま」 「おー、おかえり」 「あら、龍我。おかえり」 高校生だし、仕事が仕事なので、このくらい遅くなっ…

【瞬 第3話 距離②】

…真梨side…… 試験勉強をしていると、ドタドタと騒がしい足音が階段を駆け上がってきた。 「お姉ちゃん!」 ガチャッと開かれるドア。何事かと振り向くと、制服姿の沙耶がスクバも下ろさずに立っていた。その手に持つ携帯のチャット画面はまだ明るい。 「お姉…

【瞬 第3話 距離①】

…龍我side…… 放課後の補習。 ふと窓の外を見やると、一般コースのサッカー部員が試合をしていた。 俺は部活をやっていない。幽霊部員になることが目に見えているからだ。 球技でいえばバスケが一番好きだけど、試合として観戦するにはサッカーも十分おもしろ…